HOME > 「これって労災使えるの?」〜通勤災害について〜
【通勤災害】


0.はじめに
「通勤中の事故に対しては労災がおりる。」というご理解、もちろん間違いではありません。しかし、通勤中に仕事とは直接関係のない場所へ寄り道した場合などはどうでしょうか。
「これって労災使えるの?」
そんな疑問にお答えすべく、今回は【通勤災害】についてのお話です。


1.原則−通勤災害とは
  労災には業務災害通勤災害があります。 このうち通勤災害とは、厚生労働省によると「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡をいう」とされ、この場合の通勤とは「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くもの」としています。
  a 住居と就業の場所との間の往復
  b 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
  c aに掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動
しかし、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は通勤とは評価されません。
「逸脱」とは、通勤途上で就業または通勤とは無関係な目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤経路上で行うささいな行為(経路近くの公衆電話の利用、タバコの購入等)をいいます。


2.例外−日常生活上必要な行為
  ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合には、逸脱又は中断の間を除き通勤となります。


3.判例−大阪高裁平成19年4月18日判決
  それでは、逸脱又は中断の例外となる日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものとはどういったことなのでしょうか?また、合理的な経路とはどういったことなのでしょうか?
  ここで、参考になる裁判例として大阪高裁の平成19年4月18日判決をみてみましょう。
  ① 事案
就業後に、通常の合理的通勤経路外にある要介護が必要な義父の居宅に、義父の介護のために週4日ほど通っていたXは、いつものように就業後に義父宅へ義父の介護に立ち寄った後の自宅への徒歩での帰宅中に、交差点で原付自動車と衝突し、頭蓋骨骨折等の障害を負ってしまい、通勤災害であると主張したXと国との訴訟になります。 この交差点での事故は、本来であれば西から自宅のある北方向に曲がって帰っている交差点の東側を南から北へと移動している途中で起きた事故であることも争点でありました。
  ② 判決
結果としてXの養父宅に立ち寄る行為は「日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合」として認められました。
  ③ 評価
逸脱・中断の特例として、本件の事件当時、厚生労働省令で定めていた「日常生活上必要な行為」は、
  A)日用品の購入その他これに準ずる行為
  B)職業能力開発促進法による職業訓練や学校教育法による教育訓練
  C)選挙権の行使その他これに準ずる行為
  D)病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
であり、本件の義父の介護行為はA)に該当すると判断されました。
  ④ 改正
これに関しては、現在では、労災保険法施行規則が改正され、日常生活上必要な行為として、「要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ扶養している孫、祖父母及び兄妹姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)」というものが追加されましたが、本事件段階では、本件義父の介護がA)と同視できるのかということだったのですが、裁判所は「労働者本人又はその家族の衣、食、保険、衛生など家庭生活を営むうえでの必要な行為」というべきであるから、日用品の購入その他これに準ずる行為に当たるとされました。
  ④ 合理的な経路
また、Y(国)は、交差点を南から北へ横断している途中で起きている事故であるから、合理的経路に復する前に生じたものであると主張しましたが、裁判所は、 「合理的な経路とは事業場と自宅との間を往復する場合に、一般に労働者が用いると認められる経路をいい、必ずしも最短距離の唯一の経路を指すものではない。…(本件事故は、)合理的な通勤経路に復した後に本件事故が生じたものと認めるのが相当である。」として、国の主張を斥けました。


4.さいごに
  このように,通勤中に事故にあったとき,通勤ルートからはずれた場所に立ち寄ったような場合でも,通勤災害と認めてもらえる場合があります。 しかし、具体的事情が同じものは一つもありません。ご自身での判断が難しい場合は、当事務所の初回無料相談をご利用ください。


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