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                                   2021/4/16 土橋美香
1 制限行為能力者制度とは
 民法制度の基本原理である私的自治の原則は、当事者が意思能力を有していることが前提であるが、意思表示の時に意思能力を有していたか否かは、後から証明が困難な場合も多く、また、外見上明らかでないことも多いため、取引の安全を図る必要が生じる。
 そこで民法は、意思能力が不十分な者について定型的に分類し、これらの者の行為能力(単独で確定的に有効に意思表示をなしうる地位または資格)を制限する規定を設けた。(法4条乃至21条)。これが制限行為能力者制度である。
2 意思能力と行為能力の関係
 意思能力を欠く者がした法律行為は無効である一方で、行為能力を欠く者がした法律行為は取り消すことができるが(法5条2項他)、意思無能力と行為無能力のどちらの要件も満たしているのであれば、どちらでも当事者にとって有利な主張を認めて良い。
3 制限行為能力者の分類
 ①未成年者
 現行法上20歳未満の者を未成年者というが(法4条)、民法改正により2022年4月1日からは18歳未満の者が未成年者となる。
 単に権利を得または義務を免れる行為(法5条1項但書)、処分を許された財産の処分(法5条3項)、営業を許された未成年者の営業に関する行為(法6条1項)を除いて、法定代理人である親権者又は未成年後見人の同意を要する。
 ②成年被後見人
 自己の行為の法的な意味を理解する能力を事理弁識能力と言い、これを欠く状況にある者が、後見開始の審判(法838条2号)を受けることによって成年被後見人となる。
 日用品の購入その他日常生活に関する行為(法9条)以外の行為について、成年被後見人が単独でした行為は取消事由となる(法9条)
 成年後見人が付され(法8条)、同意権や財産管理権(包括的な代理権)を有するが、居住用不動産の処分については家庭裁判所の許可が必要となる(法859条の3)。
 ③被保佐人
 事理弁識能力が著しく不十分な者が、保佐開始の審判(法876条)を受けることによって被保佐人となる。
 法9条但書に規定する行為に該当しない法13条1項各号乃至2項に規定する行為について、保佐人の同意なくした行為は取消事由となる(法9条4項)。
 家庭裁判所は、被保佐人の同意により、保佐人に代理権を与えることができる(法876条の4)。
 保佐人が必要もなく同意を拒絶したときは、被保佐人は家庭裁判所に同意に代わる許可を求めることができる。(法13条3項)
 ④被補助人
 事理弁識能力が不十分な者が、補助開始の審判を受けることによって被補助人となる。
 家庭裁判所が、請求により、民法13条1項各号うち特定の行為について補助人の同意を要すると審判した行為について、補助人の同意を得ずに行った行為は取消事由となる。
 開始の審判及び同意を要する行為の審判には本人の同意が必要である。(法15条他)
 審判により補助人に代理権を与えた場合でも本人の行為能力は制限されない。
4 すべての制限行為能力者に共通する事項
 権限外の行為については、取り消すことができる(法5条2項他)
 後見人等は、複数人や法人がなることもできる(法843条他)
 後見人等の事務を監督するために必要があると認められるときは、請求又は家庭裁判所の職権で後見人等に監督人が選任される(法849条他)。
 法定代理人の同意が必要な場合の同意とは、個別具体的な明示の同意だけでなく、黙示の同意や法定代理人が予見できる範囲の包括的な同意でも良い。
 取消権者及び追認権者は、(制限事由が無くなった後の)制限行為能力者、代理人、承継人、同意権者である(法120条、122条)。
5 成年被後見人、被保佐人、被補助人に共通する事項
 開始・取消審判を請求できる者は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官である(法7条他)。
 既にいずれかの開始の審判がなされているときは、前の審判を取り消さなければならない(法19条)。
 後見人等は、本人の意思を尊重し、身上配慮義務を負う(法858条他)。
 事理弁識能力が回復したときは、各審判は取り消される(法10条、15条、18条)。
 後見登記ファイルに登記がなされる。
6 任意後見制度
 将来判断能力が不十分となる場合に備えて、自己の後見事務を特定の者に委託する制度を任意後見制度といい、より本人の意思を尊重できるため、原則として後見制度に優先する。
7 制限行為能力者の相手方の保護
 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(法21条)。
 制限行為能力者と取引をした相手方は、一定の期間を定めて追認するか否かを催告することができる。単独で追認できる者が期間内に確答を発しないときは追認したとみなされ、単独で追認できない場合には取消があったとみなされる(法20条)
                                                                            以上


参考文献・引用文献

 民法講義録 改訂版 新井誠・岡伸浩 日本評論社 2020年 p15〜p32

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