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               目的税の導入について
                               土橋哲人 2012/7/9
目的税のメリットとデメリットについて
1、問題提起
 近年、財政再建のために消費税率の引き上げが議論されているが、その中で、消費税の使途を福祉などに限定することを法定し、特別会計を設けて厳格に管理する「目的税」化を主張する意見は少なくない。そこで、この「目的税」について、財政の適正な運営という視点から検討する。
2、財政民主主義
 そもそも、国家は、国民に各種の公共サービスを提供することをその任務として存在している。国家がその任務を果たすためには、莫大な額の金を必要とするが、それは結局、国民が負担しなければならない。したがって、国家の任務達成に必要な経済活動、つまり「財政」の適正な運営は国民にとって重要視される。
 この点、日本国憲法は、行政権の主体は内閣であると定める一方で、財政についてとくに一章を設け、国会のコントロールを強く認めている。「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」(憲法83条)という規定は、国会の議決を重視するという財政民主主義の原理を明らかにしたものである。
3、財政の資源分配機能
 また、資本主義経済では基本的に市場を通じて資源を再配分するが、公園・消防・警察などの公共財は市場を通じて取引されるわけではなく、政府を介して配分されなければならない。すなわち、財政には「市場の失敗」を補うための資源配分機能があると考えられる。
4、ノン=アフェクタシオンの原則
 このような財政のメカニズムは、①私人の財産を強制的に侵害する作用と、②集めた金銭を管理・配分する作用の、2つの局面に分類できる。
 この点、法治国家においては、「国家活動を規律するのは法であって、金ではない」から、金を集める作用である①と集めた金を使う②は分離されなければならない。これは、「金がないから、警察がいない」などということを防ぐ、つまり上記3の「財政の資源配分機能」の公正さを担保するためにも重要である。
 したがって、財政のあり方として、特定の収入を特定の支出に充当することは否定される(ノン=アフェクタシオンの原則)。この原則から、税収が特定の公共サービスに使い道を限定されない一般税(普通税)が正当化される。
5、受益者負担
すると、公共サービスは税負担の対価として配分されるものではないことになり、市場のように、受益者が負担するという関係は成り立たない。
 しかし、受益者等の範囲が特定の集団に明確に限定され、かつ、受益等の程度がその集団に属する個々の者ごとにかなり明確に評価しうるような場合には、原則として負担金という形でそれぞれの受益等の程度に対応する負担を求めることも、不当とはいえない。
 このように、公共サービスからの受益に応じて行うべきだとする考えを「受益者負担の原則」という。
6、目的税
 目的税とは、特定の公共サービスを提供する目的のために、その税収を使用することが定められている租税である。例えば、ガソリン税収を道路整備という使用目的に限るような場合である。
 目的税は、単に何の関係のない税と支出を関連づけるのではなく、「受益者負担の原則(上記5)」の考えに沿って、特定の公共サービスから受ける便益に応じた税負担を実現しようとするものである。つまり、目的税は、公共サービスの提供手段として、擬似的な市場メカニズムを実践しようとするものにほかならない。
 それでは、以上の観点から、目的税はいかに考えられるか。
7、目的税のデメリット
①まず、目的税は、「ノン=アフェクタシオンの原則」に反し、政府の予算編成の自由度を縛ることになる。これは、議会や行政の権限が目的税により阻害されることを意味し、財政の統一的運営が困難になり、財政の硬直化の一因となる。
②また、目的税は特定の税収を特定のサービスの支出に関連づけているため、必要なサービスの水準と目的税収が一致する保証がない。つまり、税収の過多・不足という非効率が起きる可能性がある。
③実質的には、目的税は直接的に料金を徴収することが困難であるので、受益と負担の乖離が起きてしまう危険がある。すると、受益団体による圧力で、変更が容易でなくなる。これは、導入理由がなくなった後でも依然として実施されることにつながり、誤った資金配分を招く。
8、目的税のメリット  ①他方、目的税は、政府の信用がない場合、目的税は政府の恣意を制約するものになる。また、受益者に負担させる目的税であれば、新税ないし税率引き上げに対する抵抗を克服しやすくなる。
②また、目的税は、特定プロジェクトの安定性、継続性が保証され、長期的な計画が可能になる。
9、結論
 公共サービスの内容の複雑化に伴い、純粋な公共財以外にも、特定の範囲の者によって受益されるサービスや行政需要が存在することはたしかであり、目的税の存在意義は否定できない。
 しかし、あくまで、目的税は「受益者負担」をその根拠としているのだから、受益と負担の特定性と明確性が確保されてはじめて正当化されると考える。
 したがって、消費税の福祉「目的税」化のように、高齢化という財政需要の拡大という財政上の都合(都合主義)によって、消費税収をそのための支出に特定化しようとする動きは、受益と負担は何の関係もなく、目的税としては正当化されないと考える。
                                        以上
参考文献
 芦部信喜、高橋和之「憲法」第4版
 金子宏「租税法」第15版
 三木義一「受益者負担制度の法的研究」

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